世界の都市が競い合うなか、ドバイはなぜ企業と人材を惹きつけ続けているのか。答えは税制やインフラだけにありません。政府主導で育成されてきた観光・美容・エンタメなどの創造産業が、都市ブランドと経済成長を同時に引き上げているからです。
ドバイ在住18年の金融経済アナリストである私の現地体験と国際金融・経済の視点を重ねながら、創造産業がどのように都市価値を更新しているのかを読み解きます。
はじめに:都市そのものがブランドになる時代
いまの都市競争は、インフラ整備や税制優遇だけでは語れません。価値を決めるのは「どんな体験と物語を生み出せるか」というクリエイティブの力です。
その最前線にあるのがドバイ。観光・美容・エンタメ・コンテンツを都市戦略の中核に組み込み、政府主導で育てることで、「都市そのものがブランド」と呼ばれる存在へ進化してきました。ここから具体例を通じて、その構造を見ていきます。
1. 「都市そのものがブランド」と言われる背景

事例:Dubai 2040 Urban Master Plan
都市ブランディングの象徴として語られるのがDubai 2040 Urban Master Plan。これは単なる都市開発計画ではなく、「どんな都市体験を提供するか」を先に定義した国家レベルの設計図です。
主なポイントは以下の通りです。
- 緑地・公共空間の大幅拡張
- 15分都市(生活圏の最適化)
- 文化・観光エリアの再定義
- 居住者の幸福度を軸にした都市設計
重要なのは、経済成長よりも先に「住み心地と体験価値」をKPIとして置いている点です。ドバイは“映える都市”を目指しているのではなく、世界中の人が「ここで暮らしたい」と思う都市像をブランドとして設計しているのです。
2. 観光・エンタメイベントが都市イメージをどう更新するか
事例:Expo 2020 Dubai(レガシー活用)
万博そのものは2022年に終了しましたが、重要なのは「アフターEXPO戦略」です。会場は現在、District 2020(後のExpo City Dubai)として再開発され、
- スタートアップ拠点
- 研究機関
- 文化・教育施設
- 国際イベント会場
として機能しています。EXPOは一過性のイベントではなく、未来都市のショーケース → 実装実験 → 恒久的な都市機能へと転換されました。ドバイがイベントを「広告」ではなく「未来体験の装置」として使っていることがわかります。
3. 美容・ファッション・ウェルネス産業が伸びる理由

事例:Dubai Health Experience(DXH)
ドバイの美容・ウェルネスを象徴するのが政府主導のDubai Health Experience(DXH)です。DXHは「医療」「美容・整形外科」「ウェルネス」「リカバリー」を観光体験として統合した公式プラットフォームで、海外からの利用者が安心してサービスを受けられる仕組みを整えています。
ここで重要なのは、美容や医療をラグジュアリー消費ではなく、都市価値として扱っている点です。ドバイでは、
- 高級スパ
- 最先端美容クリニック
- 予防医療・ホリスティック医療
- 不妊治療
が「都市の魅力を体感するインフラ」として位置づけられています。その結果、創造産業としての美容・ウェルネスは、観光収益と都市イメージ向上の両輪になっています。
4. 日本のアニメ・ゲーム・アートとの融合可能性
事例:Dubai Program for Gaming 2033
2023年に発表されたDubai Program for Gaming 2033(DPG33)は、ドバイがゲーム産業を国家戦略に据えた象徴的プログラムです。
- 世界トップ10のゲーム都市入り
- 約3万人の雇用創出
- スタートアップ・IP育成
- 国際イベント・eスポーツ誘致
といったKPIが明確に設定されています。ここは日本のアニメ、ゲーム、キャラクターIPにとって大きな機会です。ドバイでは「日本文化=ニッチ」ではなく、グローバルIPとして経済実装する視点で捉えられます。展示・イベント・教育・観光を組み合わせた共創モデルが現実的になっていくでしょう。
5. 「文化×経済」のハブへどう進化するか

事例:Dubai Design District(d3)
ドバイの未来像を象徴するのがDubai Design District(d3)です。d3は、
- ファッション
- デザイン
- アート
- メディア
- スタートアップ
が集積する政府主導のクリエイティブ特区で、単なるオフィス街ではなく「文化を生み出す生態系」として設計されています。企業・クリエイター・投資家・教育機関が日常的に交差し、文化が経済価値へ転換される環境が整っています。
ドバイは今後、「文化イベントを開催する都市」から「文化が循環して産業になる都市」へと進化していくでしょう。
おわりに
ドバイのクリエイティブ産業は、感性や華やかさだけで成り立っているのではありません。都市計画、政策、産業設計、グローバル戦略が緻密に組み合わされ、文化そのものが経済エンジンとして機能する都市モデルが最初から構築されています。
だからこそドバイは、「ビジネス都市」から「文化×経済の未来都市」へと確実に進化しているのです。
著者紹介

桑田 稜子(Ryoko Kuwata)
Founder & CEO, INSPIRE LAB GROUP
2008年よりドバイ在住の経済アナリスト・実業家・メディアプロデューサー。
INSPIRE LAB GROUP CEOとして、マクロ経済と資本の動きを読み解き、個人と企業の未来価値をデザイン。グローバルビジネス、メディア、クリエイティブ、ウェルネス領域で新しい地球の価値創造を支援している。
