世界の専門家が議論した情報開示の現在地
2026年10月|イタリア・ルッカ現地取材
取材・執筆:桑田稜子(SPACE FRONTIER)
世界のUAP関係者がイタリア・ルッカに集結
2026年10月10日から11日の2日間、イタリア・トスカーナ州の歴史都市ルッカで、UFO・UAP(未確認異常現象)をテーマとする国際会議「WORLD SUMMIT UFO・UAP」が開催された。
会場となったのは、ルッカ市内のグランド・ホテル・グイニージ(Grand Hotel Guinigi)。米国、フランス、イタリア、日本、中国、ノルウェー、ドイツ、ポルトガル、スイス、アルゼンチンなどから、研究者、元政府関係者、ジャーナリスト、政策関係者らが集まった。
会議の中心的なテーマは、近年、米国を中心に進展してきたUAPをめぐる「情報開示(Disclosure)」の動きと、その国際的な広がりである。
UAPとは、Unidentified Anomalous Phenomenaの略称で、日本語では「未確認異常現象」と訳される。従来のUFO(未確認飛行物体)という概念を含みながら、既存の情報だけでは直ちに説明できない現象を、より広い観点から扱うために用いられている。
近年、UAPをめぐる議論は、航空安全、国家安全保障、科学的調査、政府情報の透明性、さらには国際協力へと広がっている。米国では、議会公聴会や国防当局による調査、報告制度の整備などを通じて、UAPを公的な検討対象として扱う動きが続いてきた。
一方、未解明の現象が報告されていることと、その起源が地球外生命体や地球外技術にあると科学的に証明されたことは、明確に区別する必要がある。
今回のルッカ会議は、こうした複雑な問題を米国だけの議論にとどめず、世界各国の経験や視点から考える国際的な対話の場となった。
イタリアのUFO研究史と国際会議の背景
イタリアは、欧州における民間UFO研究の長い歴史を持つ国の一つである。その代表的な団体が、1967年に設立された「チェントロ・ウフォロジコ・ナツィオナーレ(Centro Ufologico Nazionale/CUN)」である。
CUNは、名称に「国立」と訳される言葉が含まれるものの、イタリア政府の機関ではない。長年にわたり、UFO関連の事例や資料の収集、研究、出版、国際交流などに取り組んできた民間研究団体である。
同団体の会長を務めるロベルト・ピノッティ(Roberto Pinotti)氏は、イタリアを代表するUFO研究者・著述家の一人として知られ、国際的な研究ネットワーク「インターナショナル・コアリション・フォー・エクストラテレストリアル・リサーチ(International Coalition for Extraterrestrial Research/ICER)」の会長も務めている。
イタリアに隣接するサンマリノ共和国では、過去34回にわたりUFOをテーマとする国際シンポジウムが開催されてきた。2026年は、従来の会場施設が一時的に利用できなくなったことを背景に、別の国際会議がイタリアのルッカで企画された。
今回のイベントは、イタリアの民間企業が企画・運営を担い、ピノッティ氏が無報酬のアドバイザーとして協力。CUNおよびICERも、その趣旨に賛同し、団体としての協力を行った。なお、ルッカ会議は、サンマリノで過去34回開催されてきたシンポジウムと直接的な運営上の関係を持つものではなく、独立して企画された国際イベントである。
ピノッティ氏自身も登壇者の一人として参加し、UAPをめぐる情報開示を国際的に進める必要性について見解を示した。
米国・欧州・アジアから多様な専門家が参加
今回の会議の特徴は、異なる国や専門分野で活動する研究者・関係者が一堂に会したことである。
米国からは、元国防総省関係者としてUAP問題に関する発言や著書で知られるルイス・エリゾンド(Luis Elizondo)氏が参加した。エリゾンド氏は、米国政府によるUAP調査や情報開示をめぐる議論において、国際的な注目を集めてきた人物の一人である。
また、米空軍退役大尉のロバート・サラス(Robert Salas)氏も参加した。サラス氏は、1967年に米国の核ミサイル基地で発生したとするUFO関連事案について、長年証言を続けている人物として知られる。
米国のUFO研究団体CUFOSに関わるドン・シュミット(Don Schmitt)氏は、1947年のロズウェル事件に関する調査・著述活動で知られている。
フランスからは、フランス国立宇宙研究センター(CNES)の政府系UFO調査組織GEPAN/SEPRAで責任者を務めたジャン=ジャック・ヴェラスコ(Jean-Jacques Velasco)氏が参加した。フランスは、未確認航空宇宙現象を宇宙研究機関の枠組みで長期的に調査してきた歴史を持つ。その経験は、政府による調査体制を比較するうえで重要な事例となる。
また、米国のSOL Foundationの共同創立者のひとりである、人類学者ピーター・スカフィッシュ(Peter Skafish)氏も参加した。スカフィッシュ氏は、UAPをめぐる問題を科学技術だけでなく、人間社会や文化、思想との関係から考察する研究者である。
欧州からは、ノルウェーのヘスダーレン現象を研究するエルリング・ストランド(Erling Strand)氏、ドイツのジャーナリストであるロベルト・フライシャー(Robert Fleischer)氏、ポルトガルのフランシスコ・モウラン・コレイア(Francisco Mourão Corrêa)氏、スイスのグイド・フェラーリ(Guido Ferrari)氏らが参加した。
さらに、欧州議会議員経験者のファビオ・デ・マージ(Fabio De Masi)氏、中国のヤン・ジン(Yan Jin)氏、アルゼンチンのアンドレア・ペレス・シモンディーニ(Andrea Pérez Simondini)氏、教皇庁立ラテラノ大学のジャンフランコ・バスティ(Gianfranco Basti)神父らも名を連ねた。
イタリアからは、ピノッティ氏に加え、退役海軍軍人のクラルブルーノ・ヴェドルッチョ(Clarbruno Vedruccio)氏も参加した。
これらの参加者は、政府機関、研究機関、大学、民間団体など、それぞれ異なる経歴と立場を持つ。所属機関の名称と、政府を正式に代表する権限の有無は区別して理解する必要がある。
多様な国と分野の専門家が集まったことは、UAPをめぐる議論が特定の国や研究コミュニティーだけに限定されない広がりを持っていることを示していた。
日本からも参加:国際的な議論との接点
今回の会議には、日本から、超党派の国会議員によって結成された「安全保障から考える未確認異常現象解明議員連盟(通称:UFO議連)」の会長補佐であり、元衆議院議員の浅川義治(Yoshiharu Asakawa)氏と、通訳で日本UAP研究所の菊池了(Ryo Kikuchi)氏が参加した。
同議連は、元防衛大臣の浜田靖一氏を会長とし、UAPを安全保障の観点から検討するとともに、政府による情報収集や調査体制、国際協力のあり方について議論を進めてきた。
日本でも近年、UAPをめぐる安全保障上の対応、航空機の安全確保、情報収集や調査体制のあり方について、国会議員を中心に議論が行われている。2026年9月には、日米の議員間でUAPに関する情報共有や協力を求める共同声明が発表されるなど、国境を越えた議員間の連携も進みつつある。
こうした動きの中で、日本から国際会議に参加し、各国の専門家や関係者と直接意見を交わすことには意義がある。
日本にとって重要なのは、米国をはじめ、海外で語られるUAP関連の主張をそのまま受け入れることではない。各国政府が何を調査し、どのような情報を公開し、科学的な検証をどのように進めているのか。その制度と実務を比較し、日本の安全保障や科学政策にとって何が必要なのかを考え、自国のために制度作りを急ぐことにある。
今回の会議への日本からの参加は、こうした国際的な議論との接点を広げる機会にもなった。
情報開示は、何を明らかにすることなのか
会議の中心的なテーマとなった「Disclosure(情報開示)」という言葉は、UFOや地球外生命体の存在を政府が公表することとして語られる場合がある。しかし、政策や科学の観点から見ると、情報開示には複数の意味と段階がある。
例えば、航空機の操縦士や軍関係者による目撃報告を適切に記録すること。収集されたデータを科学的に分析すること。安全保障上の機密を保護しながら、公開可能な情報を社会に提供すること。そして、未解明の現象について、何が確認され、何がまだ分かっていないのかを明確にすることだ。
政府による公式調査、民間研究者による分析、個人の証言、仮説や推測は、それぞれ証拠の性質が異なる。その違いを整理することは、UAPを公共政策として議論するうえで欠かせない。
今回のルッカ会議では、米国を中心に進められてきたUAP情報開示の動きを、米国以外の国々も主体的に取り組む国際的なムーブメントへと発展させるべきだという方向性が示された。
ピノッティ氏も会議終了後の総括で、情報開示は米国だけでなく、世界的な取り組みとして進められるべきだという考えを示している。
一方、各国の制度、情報公開の範囲、科学的な検証方法には違いがあり、国際協力を実現するには共通の課題も多い。
SPACE FRONTIERによる現地取材:
ルイス・エリゾンド氏への個別インタビューも収録
SPACE FRONTIERは今回、イタリア・ルッカで開催された国際会議を現地取材し、世界各国から集まった専門家たちの議論や、UAPをめぐる国際的な動向を記録した。
また、米国の元国防総省関係者であり、UAPの情報開示をめぐる議論で国際的に知られるルイス・エリゾンド氏への個別インタビューを実施した。
約50分にわたるインタビューは、フランスの科学ジャーナリスト、チャールズ=マクサンス・ライエ(Charles-Maxence Layet)氏との共同取材として収録したもので、後日公開を予定している。
今後もSPACE FRONTIERでは、国際会議の現地取材や専門家へのインタビューを通じて、UAPに関する科学、政策、安全保障、情報公開の動向を、日本の読者に向けて、より多角的に伝えていく。
世界のUAP議論の中で、日本は何を学べるのか
UAPをめぐる議論は、科学と安全保障、政府の透明性、国際協力、そして社会の知る権利、人権問題が交差する領域にある。
現象の正体について結論が出ていないからこそ、信頼できる情報を収集し、事実と仮説を区別し、異なる専門分野の知見を共有する仕組みが求められる。
日本には、宇宙開発、航空宇宙工学、観測技術、防衛・安全保障、国際協力など、多くの関連分野で蓄積された知識と技術がある。こうした強みを、UAPという未解明の問題に対してどのように生かせるのか。
その問いは、地球外生命の存在をめぐる議論だけにとどまらない。科学的に未解明な現象に社会がどう向き合い、政府がどのように情報を扱い、国民と対話し、国境を越えて知識を共有していくのかという、より広く多角的な課題につながっている。
イタリア・ルッカでの2日間は、その問いを改めて考える機会となった。
SPACE FRONTIERは今後も、日本と世界をつなぐ視点から、UAPをめぐる科学、政策、安全保障、国際協力、人権に関する動向を追っていく。そして、その先にある、より普遍的な問いにも目を向けていきたい。
私たちは、広大な宇宙の中でどのような存在なのか。未知なる現象や生命との向き合い方は、人類の意識や価値観、文化、思想をどのように進化させていくのか。そして、地球という枠組みを超え、宇宙文明の一員として生きる時代を迎えるとき、私たちはどのような社会を築いていくのだろうか。
SPACE FRONTIERは、こうした問いを通じて、人類と宇宙の新たな関係、そして次なる文明の可能性を探求していく。
次回|UAP & JAPAN #03
イタリア国際会議2026レポート【第2部/全3部】
UAPと国家安全保障:米仏の専門家から読み解く政府調査と情報公開
ルイス・エリゾンド、ロバート・サラス、ジャン=ジャック・ヴェラスコらの経歴と主張を手がかりに、米国とフランスのUAP調査の歴史、核施設をめぐる証言、政府による情報収集と科学的検証の課題を読み解く。
関連資料
Centro Ufologico Nazionale(CUN)、ロベルト・ピノッティ「2026年10月10〜11日ルッカUFO/UAP世界サミット総括」、2026年10月15日。
https://www.centroufologiconazionale.eu/il-world-summit-ufo-uap-di-lucca-del-10-11-ottobre-2026-un-bilancio/
SPACE FRONTIER「UAP & JAPAN #01」、2026年9月公開リンク
https://www.inspire-lab.com/ja/uap-japan-01/
編集注:本記事は、公開された会議報告および現地取材をもとに構成しています。登壇者の証言や見解と、政府・科学機関によって確認された事実は区別して記載しています。
UAP & JAPAN|A SPACE FRONTIER SERIES
日本のUAP政策、安全保障、科学、情報公開、そして国際協力の現在を追う。
SPACE FRONTIERは、一次情報と国際的な視点、独自取材を通じて、日本のUAPをめぐる動きを世界へ伝えていきます。
日本から、世界へ。
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