米仏の専門家から読み解く政府調査と情報公開
2026年10月|イタリア・ルッカ現地取材
取材・執筆:桑田稜子(SPACE FRONTIER)
UAPは、なぜ国家安全保障の問題となったのか
2026年10月10日から11日にかけて、イタリア・ルッカで開催されたUFO・UAP国際会議「WORLD SUMMIT UFO/UAP」。
第1部では、世界各国から集まった専門家や政策関係者の顔ぶれと、米国を中心に進められてきたUAP情報開示を国際的な取り組みへと広げようとする動きを紹介した。
第2部では、会議に参加した米国とフランスの専門家たちの経歴や公開証言を手がかりに、UAPと国家安全保障、政府調査、情報公開の関係を掘り下げていく。
UAP(Unidentified Anomalous Phenomena/未確認異常現象)は、長年、UFOという名称とともに、未知の飛行物体や地球外生命体の存在をめぐる話題として扱われてきた。
しかし近年、その議論の中心には、より現実的な政策課題が浮かび上がっている。それは、国家の領空や軍事施設周辺で正体を特定できない現象が観測されたとき、政府はどのように対応するべきなのかという問いである。
仮にその現象が、未知の自然現象、観測機器の誤認、民間の航空機器、あるいは外国の先端技術であったとしても、航空安全や防衛の観点から調査する必要がある。
さらに、軍や情報機関が収集したデータには機密情報が含まれることも多い。国家安全保障を守るための情報管理と、国民の知る権利や政府の説明責任を、どのように両立させるのか。
UAP問題は、こうした現代社会の重要な課題と深く結びついている。
ルイス・エリゾンド氏:米国政府の情報開示を求める元国防総省関係者
今回のルッカ会議に参加したルイス・エリゾンド(Luis Elizondo)氏は、米国の元国防総省関係者であり、UAPの調査と情報開示をめぐる議論で国際的に知られる人物の一人である。
エリゾンド氏は、米国政府内で機密性の高い安全保障関連業務に従事した経歴を持ち、退職後はUAPに関する政府の透明性や議会による監督の必要性を訴えてきた。
2024年11月13日には、米国下院監視・説明責任委員会の小委員会によるUAP公聴会に証人として出席した。公聴会の正式名称は「Unidentified Anomalous Phenomena: Exposing the Truth(未確認異常現象:真実を明らかにする)」。
この公聴会では、国防総省や情報機関によるUAP関連情報の管理、機密指定のあり方、政府の説明責任などが主要な論点となった。エリゾンド氏は提出した証言書で、UAPに関する技術や秘密計画について踏み込んだ主張を行うとともに、過度な機密指定や政府機関の間で情報が分断されることの問題を指摘した。
ただし、こうした主張のすべてが、公開された証拠によって独立に検証されているわけではない。証人の証言と、政府が公式に確認した事実は区別する必要がある。それでも、元政府関係者が議会という公的な場で発言し、国民の代表である議員がその内容を検討することには、民主的な監督という重要な意味がある。
UAPの情報開示とは、単に未知の現象の正体を明らかにすることだけではない。
政府がどのような情報を保有し、誰がその情報にアクセスでき、どのような手続きで機密指定や公開の判断が行われているのか。
その制度そのものが問われているのである。
(特集)SPACE FRONTIERによる個別インタビュー
SPACE FRONTIERは今回、ルッカにおいてエリゾンド氏への約50分にわたる個別インタビューを実施した。
フランスの科学ジャーナリスト、チャールズ=マクサンス・ライエ(Charles-Maxence Layet)氏との共同取材として収録したもので、後日公開を予定している。
インタビューの詳細については、公開時に改めて紹介する。
ロバート・サラス氏:核ミサイル基地をめぐるUFO証言
国家安全保障という観点から、もう一人注目される人物が、米空軍退役大尉のロバート・サラス(Robert Salas)氏である。
サラス氏は、冷戦時代の1967年、米国モンタナ州のマルムストローム空軍基地に関連する核ミサイル施設で勤務していた。
同氏は、施設の警備担当者から未確認飛行物体の目撃報告を受けた際、複数の核ミサイルが発射不能の状態になったと証言している。
サラス氏は、この出来事を長年にわたって公に語り、核兵器施設とUFO現象との関係について調査を求めてきた。
一方、この事案については、当時の記録や関係者の証言をどのように解釈するかをめぐり、議論が続いている。
核ミサイルの運用上の異常と未確認物体の目撃が同時期に報告されたとしても、両者の因果関係が証明されたことにはならない。
しかし、核兵器施設の周辺で正体不明の物体が報告された場合、その原因を調査すること自体は、安全保障上の重要な課題となる。
現代では、無人航空機、電子戦技術、監視システム、人工知能などの発展により、軍事施設の周辺で観測される異常を分析することは、ますます複雑になっている。
重要なのは、現象の正体について結論を急ぐことではなく、異常の報告を適切に受け付け、客観的な記録を残し、再検証できる仕組みを整えることである。
サラス氏の証言は、その必要性を考えるための歴史的な事例の一つといえる。
フランス:半世紀近く続く政府系UAP調査の歴史
米国とは異なる制度的なアプローチを示しているのが、フランスである。
フランスでは1977年、国立宇宙研究センター(Centre National d'Études Spatiales/CNES)の内部に、未確認航空宇宙現象を研究するGEPANが設立された。
その後、1988年にSEPRAへと組織が移行し、2005年にはGEIPAN(Groupe d'Études et d'Informations sur les Phénomènes Aérospatiaux Non identifiés)へと再編された。
現在のGEIPANは、目撃報告の収集、科学的分析、記録の保存、一般市民への情報提供を主要な任務としている。調査には、憲兵隊、警察、航空関係機関、気象分野、科学技術の専門家などが関わり、複数の専門領域から事例を検討する体制が設けられている。
特に注目すべき点は、調査された事例を分類し、可能な範囲で公開していることである。GEIPANは、報告された現象を、説明が確定したもの、説明の可能性が高いもの、情報不足で分析できないもの、調査後も未解明のものなどに分類している。
ここで重要なのは、「未解明」という分類が、そのまま地球外起源を意味するわけではないという点だ。十分なデータが存在しない場合もあれば、複数の観測情報があっても現時点の分析では結論に至らない場合もある。
それぞれの事例を同じものとして扱わず、証拠の質と調査結果に応じて整理する姿勢が求められる。
フランスの取り組みは、UAPをめぐる議論を長期的な公的調査の対象として扱い、その記録を社会に蓄積していく制度の一例である。
ジャン=ジャック・ヴェラスコ氏:政府調査の経験から考える未解明現象
今回のイタリア会議には、フランスのジャン=ジャック・ヴェラスコ(Jean-Jacques Velasco)氏も参加した。ヴェラスコ氏は、CNESのGEPANおよびSEPRAで責任者を務め、長年にわたり未確認航空宇宙現象の調査に関わってきた人物である。
フランスの調査体制の特徴は、目撃者の証言だけでなく、可能な場合には気象情報、航空機の運航状況、天文現象、観測機器の記録などを組み合わせて検証することにある。その過程で、多くの報告は既知の現象として説明される一方、十分な検討を行っても説明が確定しない事例が残ることがある。
ヴェラスコ氏は、こうした政府系調査の経験を背景に、未解明現象について著述や発言を行ってきた。
ただし、過去の責任者による個人的な見解と、現在のCNESやGEIPANの公式な立場は同一ではない。
この区別は、政府機関に所属した経験を持つ専門家の発言を報じる際にも重要である。
フランスの事例が示しているのは、未解明の現象を研究するために、最初からその正体について特定の結論を設定する必要はないということだ。何が説明でき、何が説明できないのかを継続的に記録し、将来の科学技術による再検証に備えることに意味がある。
米国とフランス:異なる制度から見える共通課題
米国とフランスのUAPへの取り組みを比較すると、制度上の違いが見えてくる。
米国では、国防総省、情報機関、議会による監督など、国家安全保障の枠組みが重要な役割を果たしている。
米国防総省は2022年、UAPの報告や分析に対応するため、全領域異常解決局(All-domain Anomaly Resolution Office/AARO)を設置した。AAROは、軍や政府機関から報告された事例の分析、情報の集約、議会への報告などを担っている。同局は2024年の歴史調査報告で、調査対象となった事例について、地球外技術の存在を確認する証拠は得られていないと説明した。
一方、フランスでは、宇宙研究機関であるCNESを中心に、民間からの報告も含めた調査と情報公開を継続してきた。
米国が安全保障と議会による監督を重視する傾向にあるのに対し、フランスでは科学的調査と公開アーカイブの整備が制度上の特徴となっている。
ただし、両国の取り組みは対立するものではない。
安全保障上の機密を守ることと、科学的な調査を進めることは、本来、両立を目指すべき課題である。また、政府による調査結果を社会に説明し、可能な範囲で公開することは、国民の信頼を得るためにも重要となる。
UAP問題において求められているのは、単純にすべての情報を公開することではない。
公開によって軍事施設の位置、監視能力、情報収集の方法などが明らかになれば、安全保障上のリスクが生じる可能性がある。その一方で、機密指定が過度に広がれば、科学的な検証や民主的な監督が困難になる。
何を守り、何を公開し、誰がその判断を監督するのか。
この問いこそ、UAPをめぐる情報開示の本質的な課題の一つであり、産官学の連携による制度作りと、制度を進化させ、監督する仕組み作りが重要課題でもある。
科学的検証と情報公開:NASAが示したもう一つの視点
UAPを科学的に調査するうえでは、米航空宇宙局(NASA)の取り組みも重要な参考になる。
NASAは2023年9月、UAPに関する独立研究チームの最終報告書を公表した。その目的は、個々のUAP事例の正体を断定することではなく、今後どのようなデータを収集し、どのような科学的手法を用いるべきかを検討することにあった。
NASAは、質の高い観測データが限られているため、多くの事例について確実な科学的結論を導くことが難しいと説明している。これは、UAP問題において証言だけでなく、観測条件、機器の特性、複数の独立したデータを組み合わせる必要があることを示している。
未知の現象を科学的に理解するためには、再現性、透明性、データの品質、独立した検証が欠かせない。同時に、目撃者が報告することをためらわず、調査機関が偏見なく情報を受け付ける環境も重要となる。
日本に求められる調査体制と国際協力
では、日本はこうした米国やフランスの経験から何を学べるのだろうか。
日本では、超党派の国会議員によって結成された「安全保障から考える未確認異常現象解明議員連盟(通称:UFO議連)」が、UAPに関する安全保障上の対応や政府の調査体制、国際的な情報共有について議論を進めてきた。
2026年10月のイタリア会議には、同議連の会長補佐で元衆議院議員の浅川義治氏と、同氏の通訳であり、日本UAP研究所の菊池了氏が日本から参加した。
日本は、宇宙開発、航空宇宙技術、観測システム、防衛、災害対応などの分野において、高度な技術と知見を蓄積している。こうした能力を活用するためには、まず未確認現象に関する報告をどのように受け付け、どの機関が調査し、どのような基準で情報を分類するのかを整理することが重要となる。
また、米国に加え、フランスをはじめとする欧州諸国の調査制度を比較・検証し、情報共有や制度整備に向けた国際的な協力体制を構築していくことも重要である。
UAPをめぐる国際協力は、特定の仮説を共有することから始まるのではない。報告制度、観測データ、分析方法、情報公開の基準など、各国が共通して検討できる具体的な課題から進めることができる。
国際的な情報共有を進めることは、未知の現象の科学的理解を深めるだけでなく、航空安全や国家安全保障に関する協力にもつながる可能性がある。
未知の現象に、社会はどう向き合うべきか
今回のイタリア会議で改めて浮かび上がったのは、UAPという未解明の問題が、科学や安全保障だけでなく、政府の透明性、民主的な監督、国際協力、そして社会の信頼に関わっているということである。
情報を公開することと、情報の正確性を保証することは同じではない。また、説明できない現象が存在することと、その起源が明らかになったことも同じではない。だからこそ、政府、研究機関、議会、メディア、市民社会が、それぞれの役割と責任を果たしながら、事実に基づく議論を積み重ねることが求められる。
そして、もう一つ考えたいのは、未知の現象に向き合う人類自身の姿勢である。
私たちは、分からないことに対して、恐怖や憶測、対立ではなく、知性と探究心、そして謙虚さをもって向き合うことができるだろうか。国境や専門分野を越えて知識を共有し、異なる立場を尊重しながら、未知なる世界への理解を深めていくことはできるだろうか。
SPACE FRONTIERは今後も、日本と世界をつなぐ視点から、UAPをめぐる科学、政策、安全保障、国際協力、人権に関する動向を追っていく。そして、その先にある、人類の意識や価値観、文化、思想の進化にも目を向けていきたい。
未知なる現象との向き合い方は、私たちの世界観をどのように変えていくのか。地球という枠組みを超え、宇宙文明の一員として生きる未来を考えるとき、私たちはどのような社会を築いていくのだろうか。
その問いを、科学と政策、そして人間と文明の両面から探求していく。
次回|UAP & JAPAN #04
イタリア国際会議2026レポート【第3部/全3部】
UAPから宇宙文明へ:国際協力、人類の意識進化と未来への問い
UAPという未知の現象をめぐる議論は、人類の世界観や価値観をどのように変えていくのか。科学、文化、思想、国際協力を横断しながら、宇宙時代の文明と社会の可能性を考える。
関連資料
米国国防総省・AARO|UAP歴史調査報告書 第1巻(2024年)
フランス国立宇宙研究センター(CNES)|GEIPANの歴史
SPACE FRONTIER|UAP & JAPAN #01
*編集注:本記事は、公開された政府資料、議会証言、研究機関の情報および現地取材に基づいて構成しています。専門家個人の主張と政府・科学機関が確認した事実は区別して記載しています。非公開の個別取材内容は含んでいません。
UAP & JAPAN|A SPACE FRONTIER SERIES
日本のUAP政策、安全保障、科学、情報公開、そして国際協力の現在を追う。
SPACE FRONTIERは、一次情報と国際的な視点、独自取材を通じて、日本のUAPをめぐる動きを世界へ伝えていきます。
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